顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、顎関節雑音、開口障害を三大主要症状とする疾患ですが、類似疾患も多いため、日本顎関節学会では五つの型に分類しています。

●顎関節症治療20年の総括
 私は、松阪市民病院の顎機能外来を20年間担当してきたこともあり、今まで1200症例以上の患者さんを治療してきました。当初、いろいろな学会や研究会に参加して、多くの説を治療に取り入れたりしてきましたが、今思うとかなりの誤説があったりして、Evidence Based Medicine(論拠に基づいた医学)がいかに重要か痛感しました。皆さんはいろいろな民間療法もどきの説に惑わされないようにしてください。どんな高価なブランドの靴でも、砂の上や雪の上はうまく歩けないのです。
 そこで、今までの治療経験の集大成として、私の行っている最新治療をご紹介したいと思います。
 まだ治療症例の少ない先生には納得できにくい点もあるかもしれませんが、いつか理解していただけると確信しています。


Q、顎関節雑音だけで治療の必要がありますか?

 ありません。顎がカクカクとかコキコキという音は、じつに30%以上の人が経験しており、この治療はあまり効果がないばかりか、出たとこ勝負で咬合をいじるとよけい悪化することがあります。もちろん症例にもよりますが、リモデリングによっていつか消去することが多いので、後に述べる生活習慣を変えることや開口練習を指導します。


Q、開口障害の時はどんな治療をしますか?

 

 これが、術者によって最も差の出る症例です。痛いから開かないという有痛性の開口障害( 型あるいは 型)でない場合、つまりクローズドロックの場合は、呼吸法を併用したマニュピレーション(徒手整復術)が非常に有効です。ただ、解除に成功した後、成書に記述してあるような即時型のスプリントを装着する方法は、食事をすればすぐロックするので無意味です。患者さんにセルフマニュピレーションの方法を指導して自力解除の手法を患側と反対の手で行えるよう指導します。この手法は長年の経験で独自に編み出したものですが実に有効なので是非試しください。

 

Q、どんなスプリント療法が有効ですか?

 

 いままで10種類以上のスプリントを約800個装着してきましたが、結果的にはスタビライゼーションスプリントミニ
スプリント、まれに前方整位型スプリントで十分です。診断をかねた可逆的な治療なので効果的ですが、長期間入れても効果が見られなければ早めに中止すべきです。


Q、顎関節症は自己修復可能な疾患ですか?

 

ある意味では、生活習慣病的な側面があり、それを改善することにより、悪い循環サイクルを断ち切れて症状が消失することがよくあります。
そのための改善点としては
 ■うつ伏せで寝ない。
 ■ほうづえをついたりして顎をおさない。
 ■低い枕でねる。
 ■剣道や吹奏楽器をする人に多いのですが、顎を奥へ押さないようにする。
 ■ストレスをためない。

 

Q、肩こり、めまい、頭痛などの不定愁訴と関係がありますか?

 

 よく咬合と全身疾患の関係でこの問題が論じられるのですが、顎関節症を治療していて二次的に不定愁訴が消失した経験は少なからずありますが、それを目的に治療するのは邪道です。なぜなら不定愁訴の原因は数え切れないほどあるからです。特にこのような症状には仮面うつ病のような心身症が関与していることもあるので、簡易精神療法(受容・支持共感)を取り入れながら慎重に対応することが肝要です。またスプリントを入れれば筋力が向上するというのは、一時的な反射反応として起こるだけで永続的なものではなさそうですが、体のバランスを測る重心動揺面積はかなり減少し、咬み合わせは体のバランスに重要な影響があると思います。